第一話 リィンバウム

 

「う、うーん…」

眩しい日差しが瞼の裏を刺激する。

真奈は小さく欠伸をしながら、ゆっくりと目を開いた。

「うーん!いい朝ですねぇ。」

誰にとも無く言って起き上がる。

ベッドが異様に硬かった気がするが気にも止めずに着替えを始める。

服を脱いでタンスをあけ……

「……あれ?」

おかしい、いつもタンスがある場所に何もなかった。

それどころか壁すらない。

それどころか家すらない。

それどころかここはどう考えても屋外だった。

…ってゆーか、気付けよ…。

「…あれーー?」

キョトンとして周りを見回す。

夜はすっかりと明けていて、眩しい太陽と青い空、白い雲が朝の挨拶をしているようだった。

「おはようございます〜」

なんとなく太陽に挨拶をした後、目の前にある絶壁のような壁を登って、ゆっくりと辺りを見回した。

果てしなく広がっているような荒野。近くに建物らしいものは見えない。

どうやら、自分がいた所はクレーターのような大穴の中らしかった。

そのクレーターの真ん中に布切れを見つける。

よく見るとそれはさっき寝ぼけて脱いだ服らしい。

ここにきて初めて上半身が下着姿である事に気付いた彼女は、特に気にした様子もなくのそのそと服を取りに戻る。

「あら?」

服を拾い上げた時、その下に転がる石ころを見つけた。

ただの石ころではない。黒や赤など、奇麗に光る石ころだった。

「落とし物かなぁ?交番に届けないと。」

いいながら散らばっている石ころを一つ一つ丁寧にかき集める。

「これで全部ですねぇ」

拾った石ころを、ノートなど文房具が入っている袋に入れると、改めてクレーターの外にでて、ようやく今の状況を確認しはじめる。

「はぁ…確か私は岡台の公園にいたはずなんだけど…」

周りにそれらしい場所はない。

てゆーか、町らしいものも見当たらない。

遠くに何かの本で読んだ要塞の様な建物が見えた。

とりあえずそこを目指して歩く事にする。

と、なにかに躓いてこけそうになった。

見ると、そこには真っ黒なすすけた物体が横たわっているではないか。

「おはようございます〜朝ですよ〜」

人に見える「それ」に声を掛けてみるが返事はない。

しばらくして当たりに異臭が漂っている事に気付く。

「………お亡くなりになられてます…?」

声を掛けても返事がない。周りを見ると、同じような焼死体がたくさん転がっている。

「困りましたね…お弔いをしようにも私一人では手が足りません…」

真奈は人手を集めるために、とりあえず要塞の様な壁が見える場所を目指す事にした。

 

「ふぅ…わりと遠かったなぁ…」

今まで歩いてきた荒野を振り返って言った。

とりあえず、方向を忘れないように地面に矢印を引いてから要塞の中に入る。

中は意外に広く、たくさんの家々が見て取れた。

しかし、真奈が辿り着いたそこはお世辞にも上品とは言えない作りの建物が多く、以前ニュースで報道されていたスラムを連想させた。

「えーと、とりあえず誰か人を見つけないと…」

キョロキョロと辺りを見回すと物陰から二人の男が姿を見せた。

一人は小柄でもう一人は大柄。

小柄な方がともかく、大柄な方はあの固い荒野の地面をも掘る事ができそうだ。

「おはようございます〜」

真奈が言うと、返事の代わりに小柄な男の手の中で小さなナイフがキラリと光る。

「よぉ、ねーちゃん。突然で悪いんだけどよぉ、ちょっとばかり、有り金全部置いていってくれねーか?」

「実はずっとあっちの方で人がお亡くなりになられていたんです。お弔いしたいので力を貸していただけませんか?」

小柄な男の言葉を完璧に無視して(当人にそのつもりはなかろうが)大柄な男に呼びかける。

「ほぅ、それは大変だな。よし、いっちょ手伝ってやるか。」

大柄な男が人のいい笑顔を見せた。

「って、おい!俺らの目的はそんなんじゃねーだろーがっ!」

小柄な男のつっこみ。そのまま大柄な男を制して続けた。

「どーでもいいから、有り金全部だせっつってんだよ!」

「有り金?…お金ですか?」

「他になにがあんだよ!」

「えーと…ハリガネ……」

ずでっ!!

男二人が盛大にずっこけた。

「んなもんもらってどーするよ!?」

「…あぁ、それもそうですねぇ。」

ってゆーか、そんなもん持ってない。

いい加減焦れてきたのか、小柄な男がつめよってくる。

「出すのか出さねーか、どっちだっ!?」

「えーと、ちょっとまって下さいねぇ。」

相変わらず柔和な笑顔のままポケットの中を探る。

「…………」

「えーと、えーと」

「…………」

「あれ?あれれ?」

「…………だぁーーーーー!!早くしろ!!」

我慢の限界に達した小柄な男が怒鳴りをあげた。

真奈は一向に気にした様子も無くポケットを探り続ける。

「……あ、おさいふはお部屋に忘れてきたんでした。」

ぶちん!

「てめーーーーーー!!おちょくってのかぁぁぁ!!」

「ニャンコさんがプリントしてある可愛いおさいふなんですよ♪」

「んなこと聞いてねぇぇぇぇ!!」

ついにキレた小柄男がナイフを振り上げた。

「ちょちょちょ、ちょっとまて、落ち着け、ガゼル!」

大柄な男が慌てて止める。

「コロスのはやばいぞ!」

後ろから羽交い締めにされた小柄な男(ガゼルという名らしい)は、今もなおジタバタ暴れている。真奈はそんなガゼルをじーーーーっと見詰めた。

「な、なんだよ…?」

「さっきから暴れて…何で怒っているんですか?」

ぶっちーーーーん!!

「お前のせいだぁぁぁぁぁ!!!」

これは世間一般で言う逆ギレではないかとも思うが…今回はガゼルに同情する事にしよう…。

「あ、そんなことよりも、あっちで人が亡くなっているんです。」

「おぉ、そういってたな。よし、わしが手伝ってやろう。」

大柄の男が急に手を放したから、ガゼルは勢いあまって地面に突っ伏した。

「わしの名前はエドスだ。こっちはガゼル。」

「あぁ、これはご丁寧に。私は須崎真奈と言います。」

言って丁寧に頭を下げて見せた。

「スザキマナだぁ?変な名前だな。」

思いっきりすりむいた鼻を擦りながらガゼルが睨み付ける。

「変ですか?」

「思いっきり変だね!」

真奈はうーんと唸って考えるが、特別変な名前だとは思えなかった。

「変といえば、お二人も変わったお名前ですね。外国の方ですか?」

そういうと、二人は驚いたように顔を見合わせた。

「なに言ってんだ?俺は生まれも育ちもサイジェントだぜ?よそ者はおめーだろ?」

「へ?私は生まれも育ちも日本ですよ?……って…」

「ニッポン?」

「さいじぇんと?」

ここにきて、真奈はようやく会話の食い違いに気付いた。

「あれあれ?私は日本にいたはずですけど…?」

「……お前さん、召喚獣か?」

「しょうかんじゅう?」

「召喚獣だって!?ってことは、この先で死んでるってのは召喚師かよ!?」

「しょうかんし?」

途端に真奈がけらけらと笑い出す。

「週刊誌は死んだりしませんよぉ。」

「…はぁ?」

また会話が噛み合っていない。

いいかげん慣れたのか、ガゼルは適当に話しを切って先を続けた。

「ケッ、相手が召喚師なら俺は弔いなんかしねーぞ。」

「まぁ、そうゆうな、ガゼル。召喚師とはいえ、死んでしまえば同じ骸だ。」

「ケッ!知ったことかよ。召喚師様なら俺らがしなくても誰かがやるだろ?」

「週刊誌じゃないのに………」

二人の会話についていけない真奈は一人呟いた。ツッコミもなくて少しだけ寂しかった。

 

目的地のクレーターに着くまでに、この世界・リィンバウムについておおざっぱに説明してもらった。

ここは今まで暮していた世界とは全く異なる世界らしい。

そして、今行ってきた要塞のような町はサイジェントと言うらしい。

更に、この世界には【召喚術】という技術があって、どこか別の世界の存在を強制的にこちらへ移動させられるらしいこと。

…それ以上の事はなにも分からなかった。

特に、自分を呼んだと思われる召喚術についてはその名前以外一般には知らされていないらしく、詳しい情報を得る事はできなかった。

「…本当におおざっぱですね。」

「すまんな。わしらも召喚術に関してはとんと無知でな。レイドならもう少し詳しく知ってるだろうが…っと、これがおまえさんの言ってたクレーターか?」

目的の場所につくと真奈は辺りを見回した。

「…あれ?あれれ?」

しかし、あれだけ大量にあった遺体が一つ残らず亡くなっていた。

「おいおい、マジかよ…」

さすがに怯んだようにガゼルが呟いた。

本来岩と砂以外は何もない荒野に抉り取られたような巨大な穴があった。

「これだけの威力を持つ物と言えばやはり召喚術だな。」

「はぁ…そうなんですか?」

「あぁ、これくらいのことならわしらにでもわかる。」

この世界、リィンバウムにあってもっとも破壊力のある兵器は爆弾でも大砲でもない。

この【召喚術】なのだ。

「ところでよぉ、お前がいってた遺体ってのはどこにあるんだ?」

ガゼルが辺りを見回しても見当たらない遺体について尋ねる。

「あぁ、私もおかしいなーと思ってたんですよ。」

考えてはいても、ガゼルの言葉でクレーターの方に意識が行ってしまい、今まですっかり忘れていたようだ。

「おいおい、無駄足かよ…」

「いや、おかしいとは思わんか?大量にあったという死体がすべてなくなっている…」

エドスが真剣な面持ちで更にあたりを見回した。

「ケッ!そいつぁどーもボケてるみたいだからな。勘違いでもしたんじゃねーか?」

「わぁ、ひどいですよぉ。ボケてなんかいないです。ちゃんと触って確認しましたもん。」

遺体を見つけた場所を指差しながら主張する。

「となると…だ、ここで召喚の儀式を行っていた召喚師の仲間が回収したか…」

「【はぐれ】に食われたか…だな。」

二人は顔を見合わせて頷くと、ここを退却する事にした。

理由は簡単である、【はぐれ】が相手だとしたら数が少なすぎる。

大量の遺体を跡形もなく平らげてしまうような数を相手に二人(当然、真奈は数に含まれていない)で戦うのは無謀と言うものだ。

「【はぐれ】…?」

真奈が聞き慣れない言葉をリピートする。

「【はぐれ】というのは【はぐれ召喚獣】の略だ。おめーみたいに、この世界に呼ばれたはいいけど、なんらかの理由で主を失ってしまった奴の事をいうのさ。」

「お前さんみたいに理性があるものならばいいがな。中には野性を取り戻して人間を襲う者もいる。」

「はぁ…」

理解しているのかいないのか、こくこくと頷いている真奈を横目に、ガゼルとエドスはサイジェントへ向けて引き返しはじめていた。

「お前さんはどうするね?」

後をついてこない真奈に向かってエドスが呼びかける。

ガゼルはそれを止めようとしていたようだが、さすがにここに放り出す気もない様で事の成り行きを見守る事にしたようだ。

「はぁ……なんとか住む場所を確保したいですねぇ。でもこの世界のこともよく分かりませんし、しばらくはここに寝泊まりして…」

「ってバカかぁ!!」

「きゃ!」

ガゼルの急な大声にびびって尻餅をついた。

「いきなり大きな声を出したらびっくりしますよぉ」

怒っているのか笑っているのか分からない表情。

でも微かに頬が膨れていた。

逆にガゼルの方は確認するまでもなく怒っていた。

「ここには【はぐれ】が出るって説明したばっかりだろーが!こんな所で寝泊まりした日にゃ明日の朝日も拝めやしねーぜ!!」

真奈はぽん!と手を叩いて

「ああ、なるほど。」

納得したようにうんうんと頷いて見せる。

「……どう思うよ、エドス…」

「…まぁ、悪さをするようには見えんが…まず間違いなく騙されるな…」

何も知らない【はぐれ召喚獣】を騙して利用するのはもはや悪人の常套手段となっているらしい。

「コイツを利用した所で大した能があるわけじゃなさそうだが…」

「まぁ、後味が悪いのは確かだなぁ」

二人はまた顔を見合わせて、うーーんと唸る。

「…仕方ねぇ、今夜だけ家で面倒みてやるかっ!」

「ほぉ、ガゼルがそんなことを言うとは珍しいな。」

エドスが心底驚いたような表情を見せる。

「だってよ、仕方ねーだろ?………って、まずは無事に帰る事を考えなきゃならねーようだな…」

急に真剣な表情になったガゼルが目配せした。

周りには人間だかトカゲだか、中途半端な姿の生物が三人を取り囲むように広がっている。

「ケッ!こんな奴に関わるんじゃなかったぜ。」

吐き捨てるように言ってナイフを構える。

「おい、俺達の側を離れるんじゃねーぞ!」

どうやら見捨てる気もないらしい。

「はぁ…」

気の抜けるようなあいまいな返事。

だがさすがにツッコム余裕もなく、ガゼルはトカゲ人間【リザディオ】を睨み付ける。

「ちっ…やっぱ数が多いな…。エドス、何体殺れる?」

「ふむ、5、6といったところか。」

「おめーの怪力…当てにしてるぜ!」

「おおよっ!」

同時に一体のリザディオに攻撃を仕掛ける。

ガゼルのナイフが足を止め、エドスの斧が体を真っ二つに裂いていた。

その隙にエドスの背後に回っていた敵を振り向きざまに両断すると、真奈に襲い掛かったリザディオの目にガゼルのナイフが突き刺さった。

苦しそうにガゼルを睨み付けたリザディオの傍らをすり抜けつつ、顔に刺さったままのナイフをスリの様な手の速さで引き抜くと敵の背後で反転。

リザディオの背中に十字の傷を付けてやる。

「ケッ!やっぱこんなチンケなナイフじゃ殺れねーか!」

中途半端なダメージを負ったリザディオが苦し紛れにその丸太の様な足で蹴りをいれる。

「しまった!かわせねぇ!!」

体勢が整っていなかったガゼルへ強烈な蹴り!

しかし、それを捌いたのはエドスではなく、意外にも一人の少女だった。

ガゼルを襲った足に軽く手を触れると、その足が木っ端微塵に粉砕される。

もんどりうって苦しむリザディオに手をかざすと眩しい光が一閃。

跡形もなく消し飛んでいた。

「これは…召喚術!?」

「その通りよ。ま、この程度ならちょちょいと片付くから!」

両腕を振りあげると高らかに叫ぶ。

「おいで、プチデビル!エビルスパイクよ!!」

両手の間で光った空間から小悪魔チックなフォルムが姿を現した。

小悪魔が無表情のまま手を振り上げて見せると、何もない天空から無数の槍が次々と降り注いでリザディオ達を串刺しにしてしまう。

エドスもガゼルも呆気に取られてその光景を見詰めていた。

動く敵がいなくなった事を確認した少女はこちらに向かって邪気のない笑顔を見せる。

「どうよ?」

してやったり!とばかりにウインクする。

ようやく正気に戻ったガゼルが

「ケッ、召喚師様が俺ら小市民を助けるなんてな。明日は嵐か?」

悪態をついた。

「あー、可愛くないな。あたしがこなきゃ三人とも彼らのディナーだったよ?」

少女があからさまにムスっしてみせた。

「……はぁ…これはこれは、危ない所をお助け頂きまして。」

ようやく自分たちが危機に陥っていた事を自覚した真奈が深々と頭を下げる。

「あ、いや、頭はあげてよ。恩に着せるつもりはないからさ。」

ちょっとテレたようだ。

「お礼をいたしますので家にいらして下さいな。」

「へ?」

ガゼルとエドスが真奈の言葉に耳を疑う。

「お前、家ってどこにあるんだよ?」

「………………………あ、そうでした…私は【はぐれ】さんでしたねぇ」

思い出したように言う。

ガゼルが大きな溜め息を吐いていた。

そんなガゼルと真奈を見て軽く吹き出した後に、エドスが少女に向かって言った。

「まぁ、お礼は言わせてくれ。お前さんのおかげで命を拾ったよ。」

「いえいえ。どーいたしまして♪」

「わしはエドス。こっちはガゼル。それから…」

「……私、これからどうしましょう?」

思いっきり話しの腰を折る真奈。

「私、人を襲う方法なんて知りません。」

「あぁ?お前、強盗やって食いつなごうってか?そんなツラでえげつねーこと思い付くもんだな?」

ガゼルが心底驚いたようにいった。逆に、少女の方は笑顔を崩していた。その表情は緊張が走っているようにも見える。

そんな様子などつゆ知らず、真奈は心底困ったような表情で言葉をつなげた。

「でも、人を襲うのが【はぐれ】さんのお仕事なのでしょう?」

本日何度目だろうか、ガゼルとエドスが同時にずっこけた。

少女の方はただキョトンとして見つめるだけだった。

「アホかぁ!奴らは仕事で俺らを襲ったとでも思ってんのかぁ!?」

「違うんですか?」

「ぐあああ!……エドス…説明頼む…」

ガゼルが疲れたように肩を落としてエドスにバトンを渡した。

「あー、つまりな、さっきの【はぐれ召喚獣】はいわば野獣みたいなものさ。わしらを獲物として襲ったに過ぎん。だから【はぐれ】が必ずしも強盗をしなきゃならんという決まりはないんだ。」

「はぁ、そうなんですかぁ。」

心底安心したように胸をなで下ろす。

「さてと、いつまでもこんなところでグズグズしてっとまた襲われるぜ。さっさと帰ろうぜ。」

ガゼルが先頭を切って歩き出す。

「そうだな。ちゃんとついてくるんだぞ、マナ。」

「はいです。」

エドスについて歩き出す真奈。

少女はその場を動こうとしなかった。

エドスが少女に呼びかける。

「お前さんもこんか?助けてもらってお礼をせんわけにはいかんだろ?」

「そんなに気を使ってもらわなくてもいいんだけど…まぁ、お礼してくれるって言うんなら…」

と、話しが終わる前に少女は言葉を中断した。

その視線は真奈が持っている袋に向けられている。その袋から赤や緑、黒に紫と言った光がわずかにもれていたのだ。

(サモナイト石が……まだ判断するのは早い…か。)

ボソリと呟いて言葉を続ける。

「あたし用事があるんだった。悪いけど遠慮しとくよ。」

「そうか?残念だな」

「気持ちだけ受け取っとくよ。」

残念そうなエドスに少女は笑顔を見せて踵を返した。

「あのぅ、お名前だけでもお聞きしたいのですが…」

「謎のヒーローとでも言っておきますか。」

屈託のない笑顔を見せて真奈達とは反対の方向に歩き出した。

「あのっ、謎のヒーローさん!」

「ん?」

「女の子ならヒーローじゃなくてヒロインですよ?」

「そ、そうね、以後気を付けるわ…」

少女は最後に引き攣った笑顔を見せて去っていった。

 

「変な奴だったなぁ。」

サイジェントに向かう途中でガゼルが思い出したようにいった。

すぐに自分で話しをつなげる。

「まぁ、こいつほど変な奴でもなかったけどな。」

「エドスさんって変だったんですか?」

「じゃなくて、おめーだよ。」

もう完全に扱いになれたようで、軽くツッコミ流してしまった。

「そういえば、この世界では人間とまったく同じ姿をした【はぐれ】さんというのは珍しいものじゃないんですか?」

「まぁ、な。戦争の助っ人やなんかでシルターンの奴等が召喚されるって話しはよく聞くな。」

「だから、私が【はぐれ】っていっても全然驚かれなかったんですねぇ。」

何気ない一言だった。

誰も気にも止めなかったが、確かにおかしな話しではある。

この世界では【はぐれ】は野良犬と同じ程度の扱いを受ける事もある。

特に幻獣界・メイルトパから召喚された者は見世物として奴隷の様な扱いを受ける事もある。

召喚師の目から見ればなおさらだろう。

大半の召喚師は【はぐれ】を人としては認めない。

にも関わらず、彼女は眉一つ動かさなかった。

まるで最初から知っていたかのように…。

単に彼女が前述の『大半の召喚師』以外に分別されるだけかもしれないが…。

「しっかし、俺としたことが無駄なことしちまったぜ。金にもならねーのにあんなところまでノコノコついていくなんてな。」

「まぁそういうな。元はといえばわしらの方から接触したんだからな。」

そういってエドスは豪快に笑っていた。

「お、そろそろ家が見えてくるぜ。」

案内されたところは最初に二人と出会ったスラムの一角だった…。

次回予告

夜の公園で不思議な光に包まれた私は、見たことも聞いたこともない世界【リィンバウム】へと召喚されてしまいました。
そこでであったガゼルさんやエドスさんに言われるまま、私は彼らの組織【チーム・フラット】に身を預けることになります。
そこで私は始めて知ったんです。
【人のぬくもり】を…。

次回 サモンナイト紅田Ver第2話
ぬくもり

今、運命の歯車がゆっくりと動き始めていた…




SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送