今、運命の歯車がゆっくりと動き始めていた…

次回 サモンナイト紅田Ver第5話
金の派閥

ここ、リィンバウムは丁度花盛りの時期。
不意に思い立ったエドスさんの発案でお花見をいくことになった私たち。
私とミューさん、カシスさんの歓迎会を開いてくれると言うお言葉に甘えて河川敷へ向かうとそこには…。

次回予告

第四話 召喚術

 

昨日の激戦から一夜が明けた。

ベッドを降りて一度大きくしてから、真奈はゆっくりと服を着替え始める。

不可抗力とはいえ、乱闘騒ぎにまで発展してしまった事に少しだけ後悔する。

自分だけが傷つくのは一向に構わないが、自分の軽はずみな行動がアルバ達三人に怪我を負わせる結果になったのは事実なのだから。

そんな事を考えていたら昨夜はよく眠れず寝付いたのは明け方で、目を覚ました今はすでに正午近くだった。

広間にはすでに昼食の用意に取り掛かっているリプレの姿があった。

「あら、やっと起きたのね、マナ。」

「はいぃ…まだ少し眠いんですけど…。」

目を擦りながら答える。

エドスやレイドはすでに働きにでているようだ。

「お、マナ。昨日の力っていつでも使えるのか?」

丁度広間に入ってきたガゼルが挨拶よりも早く聞いてくる。

「えぇと、無理ですね。」

少し悩んだわりにはきっぱりと断言していた。

「んじゃ、練習するっきゃねーな。」

「え?」

「昨日、バノッサも言ってただろ?利用できる物はなんでも利用するのがスラムでのルールだ。この【フラット】に召喚術を使える奴がいれば、召喚師でさえそうそう手は出せなくなる。」

「はぁ…でも、練習といわれても何をすればいいのか…」

「なぁに、適当にやってればそのうちできるさ。昨日だって無意識でできたんだろ?」

「まぁ、そういわれればそうですけど…」

ガゼルは忘れているのだろうか、真奈を召喚したと思われる召喚師達は全滅していたという事を…。強力な力を持つ召喚術にはそれだけの危険が付きまとうのだ。

しかし、確かに体術では召喚師と戦う事は無理だろう。

実際戦った事はないのだが、以前荒野で見た謎のヒロイン(仮名)の召喚術や、昨日自分で使った召喚術の威力はとても体術でどうこうできるモノではない。

…しかし、召喚師がこんなスラムの一角にある孤児院に干渉してくるものなのだろうか?

その疑問に答えたのはリプレだった。

「この孤児院をつぶしたのは【金の派閥】の召喚師なのよ。」

【金の派閥】…どうやら召喚師達が運営する組織の名前らしい。

このサイジェントの町を仕切っているのは【金の派閥】の召喚師・マーン三兄弟なのだと、リプレが教えてくれた。

「…そうですねぇ、なにもしないよりはやってみた方がいいかもしれませんね。」

「そうこなくっちゃな!昼飯食ったら早速特訓だぜ!!」

妙に張り切るガゼルだった。

 

昼食後(真奈にとっては朝食みたいなものだが)、真奈は一人で例の枯れ井戸に向かっていた。

召喚術の知識がまったく無い以上、少しでも知識を貯える必要があるからだ。

そして、ここにいる人物はサモナイト石の中にいる事から考えても、召喚術に縁がある者に違いないだろう。

(…本当にきやがった…。)

「こんにちわー♪」

(なんの用だ、人間?)

「そういえば、私はあなたの名前を聞いてませんよね?」

(……何の用だと聞いている)

「『何の用だと聞いている』さんですか?」

(アホかっ!俺の名はアルゼルだ!)

「ではアルゼルさん。あなたは召喚術についてなにかご存じないですか?」

(…貴様は召喚師ではないのか?)

「よく分からないんです。でも、昨日偶然召喚術を使ってしまったんですよ。」

(……なるほど、昨日の凄まじい魔力の流れは貴様のモノか…)

「そうみたいですねぇ」

(…あれだけの魔力があればこの封印を解くことも可能なはずだ。)

「そうなんですか?」

(解けっ!今すぐ俺の封印を解けっ!)

「でもぉ、どうやればいいか見当もつかないんですよ。」

とりあえず、真奈に召喚術を覚えさせなければここから出るのは無理と判断したようだ。

アルゼルは仕方なくといいたげな溜め息を吐いた後、ゆっくりと語りはじめた。

(…召喚術とは、サモナイト石に魔力を送りこことは違う世界の住人を強制的に呼び出すものだ)

「はぁ…」

(召喚術に使われる呪文は、それ自体が言霊としての効力を持っている。つまり、特定の言葉を、特定の順番にならべて発音する事によって、その言葉通りの力を持つ。)

「???」

(ようするに、言葉の中に【命ずる】や【我が僕となりて】などの言葉を使えば、召喚した対象を自分の下僕のように使役できるのだ。それを【誓約】という。)

「はぁ…」

(そうやって下僕となった召喚獣は致命傷を負うまで召喚師にこき使われる事になる)

致命傷を負った召喚獣は生存本能が働き、誓約の魔力を振り切ってもとの世界に強制送還されるのだ。真奈は、傷つきながら戦う異界の存在を思い浮かべて沈黙していた。

(人間どもはそうやって胸くそ悪くなるような戦争を続けていたのさ…)

「だから、アルゼルさんは人間が嫌いなのですか?」

(…似たようなものだ。さぁ、俺の話しは終わりだ。さっさと実践で召喚術を極めてきな。あの胸くそ悪ぃ技術をな)

「………」

真奈はなにも答えずにアルゼルに背を向けて歩き出した。

(マナ…と言ったな。最後に一つ言っておく。)

「…?」

(人間が召喚術という技術を生み出す以前は…人間と異世界の住人は友だった…)

「……はぁ」

(お前がどの世界の召喚術に適しているのかは分からん。だが、どこの世界にも、未だに人間を友と信じている者がいるはずだ…)

「………」

(……召喚術と言うものがどういう技術なのか…自分なりに考えてみる事だ)

「…はい。」

アルゼルに一礼してから、真奈は井戸の外へと出た。

召喚術がどういう技術なのか…それはよく分からない。

今は、外敵から身を守る技術が必要なのだ。

そのためには召喚術の呪文を覚えなければならないらしい。

だが、それでいいのか?

自分と同じように理不尽に召喚され、意思を奪われ、戦うための下僕とする…。

そんな術を本当に使ってもいいのか?

真奈は偶然自分の意志をもったまま召喚された。

でももし、意思を失い下僕として召喚されていたら…?

元の世界にいた時となんら変わらない。

人の言うままに動くだけの人形だっただろう。

そう考えると…自分の都合のために召喚獣の意識を奪う呪文なんて欲しくない。

そう思った。

(アルゼルさんは言った。未だに人間をお友達と思ってくれている人達がいると…。そんな人に酷い事をするくらいなら…)

かなわないと分かっていても、自分の力だけで戦おう、そう思った。

 

「あぁ!?特訓はしない!?」

「はい。」

きっぱりとそう答える真奈。

アルゼルとの会話の内容を伝えると、ガゼルは納得してかうーんと唸った。

「でも、昨日の奴は意思がないようには見えなかったがなぁ」

「あ…そういえばそうですねぇ」

確かに昨日はガルマザリアと会話していた。

つまり、意思はあるということだ。

「そのアルゼルってやつの言葉を信じるなら、その特定の言葉を使わなければ強制的に僕にするってのはないんじゃねーか?」

「そうですねぇ…でも、もし、以前私たちを襲ったような方が出てきたらどうします?」

以前戦った【はぐれ召喚獣】の事をいっているのだろう。

「一匹ならなんとかできるだろ、問題は場所だな。ここじゃさすがにヤバイ。荒野にでもいって試して見ようぜ?」

ガゼルはどうしても召喚術を覚えて欲しいようだ。

たしかに、召喚術を使えるというだけで他の人間に対して牽制にはなる。

バノッサも金の派閥もそう簡単には手を出せなくなるだろう。

おそらくガゼルは、この孤児院がつぶされた時のような理不尽な悲しみをもう二度と経験したくないのだろう。

いや、むしろ、自分よりもリプレや子ども達に二度とあんな思いをさせたくないのではないだろうか。

「…わかりました、荒野にいきましょう。」

そんなガゼルの心境を察してか、いよいよ根負けした形で荒野に向かう真奈だった。

 

「ここら辺でいだろ?」

町から遠く離れた位置でガゼルが立ち止まる。

真奈は道具袋の中から適当にサモナイト石を取り出した。

「昨日は紫の石を使ったよな?」

「そうでしたっけ?」

自分でやったことながら覚えていないらしい。

今、真奈が手にしているのは緑のサモナイト石だ。

「えーと、サモナイト石に魔力を送る……。」

石を握り締めて俯く。

「………」

固唾を飲んで見守るガゼル。

「………魔力を送る…」

「………」

「…魔力を送る…って、どうすればいいんでしょ?」

「ぐはっ」

豪快にこけるガゼル。

真奈はいつも通りの笑顔であっけらかんとしていた。

「あらら、お二人さん、なにやってんの?」

とその時、通りすがりの召喚師が声を掛けて来た。

二人は彼女に見覚えがある。

「謎のヒロイン(仮名)さん。こんにちわ〜♪」

「あぅ、それ、やっぱやめて…恥ずかしいから…」

「はぁ…?」

「あたしはカシスって言うのよ。よろしくね。」

「カシスさんですね。わかりました。」

「ふーむ、そのサモナイト石を見ると、召喚術の真似事でもしてるのかな?」

「真似事じゃねーよ、マナは昨日、召喚術を使って見せたんだぜ?」

ガゼルがふふん!と鼻を鳴らしながら言うと、カシスは必要以上に驚いて見せた。

「でも、召喚術に必要な呪文知ってんの?」

「はぁ…じつはやり方も知らないんですよ…」

またもや大袈裟に驚くカシス。

「やり方も知らないのに召喚術が成功したの?」

「はぁ…。」

「まぁいいわ、知らない仲じゃないし、特別に教えてあげる。」

カシスは得意げに胸を張って言った。

「あぁ?召喚師が平民風情に召喚術を教える?なにを企んでんだ?」

「企んでなんかないよ、失礼だなー。ただね、これがあたしの任務だから…」

言いかけてはっと口を押さえる。

明らかに不信そうな視線を投げつけるガゼルに、カシスが弁解する。

「ほら、召喚術を偶然にも発動させた民間人なんて危険じゃない?素質だけで召喚術を使ったらとんでもないモノを召喚してとんでもない大惨事を引き起こす事があるのよ。」

「はぁ…たしかに…」

あのガルマザリアクラスの者を召喚して無差別に攻撃を始めたらどういう事になるか…。

想像しなくても結果は分かる事だ。

「現に、何年か前にどこかの街を目茶苦茶にした子どもがいてね。蒼の派閥に強制拘束されたらしいのよ。」

その事件の原因も魔力の暴走だったと説明してくれた。

「とゆーわけだから、そういう危険性を持った人物と出会ったら派閥に連絡するのが使命なんだけど、マナはそんなところに拘束されたくないでしょ?」

「はいぃ。」

想像しただけでうんざりしていた。ちなみに派閥とは同じ考えを持った召喚士が集まって出来た組織の事だ。

「だから、あたしが基本を教えてあげる。」

「お願いします。」

「といっても、そんな難しい事じゃないのよねぇ。サモナイト石に意識を集中させて呪文を唱えて対象の名前を言うだけ。」

「なんだ、すげー簡単そうじゃねーか?」

「まぁね。それで、呪文なんだけど…」

と、カシスは絶句する。

呪文を聞くよりも早く、真奈がサモナイト石に意識を集中しはじめていたのだ。

「って、最後まで聞きなさいよ!?【誓約】をせずに召喚したら絶対暴走するって!!」

その言葉は真奈には届いていない。

「…ま、緑なら安心か。」

真奈が握り締めている緑のサモナイト石を見てどうせ成功しないと高をくくったのか、真奈の意識が戻ってくるのを待つことにしたようだ。

「それってどういうことだよ?」

「あぁ、召喚術には素質ってものが必要なのよ。たとえばあたしなら紫・サプレスの召喚術を使えるけど他のは駄目なのよ。」

「なるほど。」

「だからマナもサプレス以外は使えないはずよ。」

「なんでそんなこと知ってんだよ?」

「あ……。それは、召喚師なら魔力の波動とかで分かるの。」

「そんなもんかねぇ。」

「そう、そんなもん」

カシスは誤魔化すように笑ってから真奈に視線を戻した。

そんなカシスの様子をガゼルは訝しげに眺めている。

そのころ、真奈は緑・メイトルパのサモナイト石と共鳴を始めていた。

右も左も見えない真っ暗な世界。

声だけが響いている。

誰かに呼びかけようとしたが、ただの練習であってたいした用事がない事を思い出して言葉を詰まらせる。

そこで生活しているものを『練習だから』という理由で呼び出すわけにもいかないからだ。

ただ、響いてくる声に耳を傾けた。

楽しそうにはしゃぐ声。

生きるために必死な声。

そこには確かに【命】が生活をしていたのだ。

そんな命を勝手に召喚するなんて、やはりやっていい事ではない。

(どこの世界にも、未だに人間を友と信じている者がいるはずだ…)

アルゼルの言葉を思い出した。

そう、これ以上、異世界の人達に悪い印象を与えてはいけない。

やっぱり、この力は使わない方がいいのでは……?

(誰かお友達になってよぉ)

その時、どこからとも無く声が聞こえる。

(一人は嫌だよぅ)

「……お友達がいないんですか?」

声の主に言葉を掛ける。

(…だれ?)

「私は須崎真奈っていいます。」

(ミューはね、ミューって言うんだよ)

「ミューさんですか。私とお友達になりませんか?」

同情…と言われればそうかもしれない。

ただ、真奈はこの世界でフラットのみんなと出会うまで一人だったのだ。そう、生まれ育ったあの世界でさえ、真奈にはたった一人の、仮初の居場所しか与えられていなかったのだ…。だから、ミューと名乗った少女の気持ちは痛い程分かる。

(でも、お姉ちゃんはどこにいるの?ミューには見えないよぅ)

姿は見えない。

でも声は聞こえる。

それが余計に不安を煽っているのだろう。

姿を見せてあげたい。

でも、自分がメイトルパの世界に行くことはできない。

ならば、彼女にこっちへ来てもらうしかない。

「こっちに…きませんか?」

(行きたいよぅ。ミュー、一人はやだもん)

ミューの気持ちと真奈の気持ちが完全に通じたと思った瞬間、

バチバチバチ!

目の前の空間が歪みはじめた。

「まさか…呪文無しでゲートが開く!?しかも、二つ目の適正!?」

「昨日と同じだ!!」

眩い光が発して、すぐに静まる。

そして、目の前には一人の少女が佇んでいた。

「あなたがミューさん?」

「うん。ミューがミューだよ。」

ミューと名乗った少女は見た目、16、7歳くらいだった。

毛皮のレオタードの様な服を着ていて、足と手には毛皮のグローブのような物を付けている。

胸では金縁の赤い宝石の様なペンダントが輝いていた。

頭部には猫のモノと思われる耳がついていて臀部には尻尾もある。

性格は見た目よりもかなり幼いようだ。

「お姉ちゃん、ミューのお友達になってくれる?」

「ええ、お友達です♪」

「ミューの事、虐めたりしない?」

「もちろんですよ。」

「わーーーーーーーい♪」

ミューが嬉しそうに真奈に抱き付いた。

一方、不機嫌なのはカシスだ。

「って、あのねぇ!!」

急に怒鳴ったカシスの顔を見てミューはとっさに真奈の背中に隠れた。

「誓約もせずに召喚して、暴走したらどうするのよ!?」

「大丈夫ですよ。だってお友達ですもの」

「たまたまお友達だったからよかったけど、狂暴な魔獣でもでたらどうするつもりだったの?」

「ちゃんとお話ししましたよ。だから、こうして出てきてくれたんです。」

「みゅ〜〜〜。このお姉さん恐いぃ〜」

カシスはミューの言葉ではっとして冷静さを取り戻した。

「あ、あのね、あたしは恐くなんか無いのよ?」

「みゅー…ホントぉに?」

「うんうん。ね〜?」

にっこりと笑って見せると、ミューがようやく真奈の背後から姿を見せた。

「ふーむ。メイトルパのニャーマン族ね。」

「ニャーマン族ですか?この娘、ずっと一人ぼっちだったらしいんですよ。」

「そうなのぉ。」

ミューは真奈の言葉に相槌を打ちながら尻尾をぱたぱたさせていた。

「あたしはメイトルパのことはあまり詳しくないんだけど、ニャーマン族は確か戦闘種族のはずよ。親から子へ戦闘技術が受け継がれるの。」

「ミューのお母さんは、ミューが小さい時に動かなくなっちゃったの。それからずっと一人ぼっち…」

「それから…毎日さっきみたいに呼びかけていたんですか?」

「…うん。でもメイトルパは『じゃくにくきょーしょく』だから、ミューのこと食べようとする人達がいっぱいいたの。」

そのことを思い出してか、ミューは瞳をうるうるさせはじめていた。

「……ってまて!?これって、もしかして食い手を増やしただけか!?」

「そうみたいね♪」

あっさりと答えたカシス。

ガゼルはへなへなと座り込んでいた。

「召喚術を甘く見たわね♪」

「そーゆー問題じゃ無いと思いますけど…」

珍しく真奈がツッコミをいれると、カシスがケラケラと笑った。

ミューも真似して笑い出す。

「うるせーぞ、おめーら」

ついに叫び出すガゼル。ミューはとっさにカシスの背後に隠れ、カシスが

「おー恐っ」

からかうように言うと、ガゼルは不機嫌そうに顔を背ける。

一息笑ってから、カシスは思い出したようにコホンと咳払いした。

「そうそう、実は…重大な発表があるんだけど…」

「あんだよ?」

ガゼルが不機嫌そうに言うと、カシスはまた咳払いをしてから言った。

「マナがこの世界に召喚された原因…なんだけど…」

そこまで言って恥ずかしそうにモジモジする。

「知ってんのか!?」

急に身を乗り出すガゼル。

「えーと…事故でした♪」

あっけらかんと答えた瞬間、盛大にずっこける。

すでにこれはガゼルの役として定着しつつあった。

「ごめんねぇ。」

カシスが申し訳なさそうにぺこりと頭を下げると、ガゼルが食い掛かるように詰め寄る。

「ごめんねぇ。で済む問題かよ!!」

「いえいえ、カシスさん、お気になさらないで下さい。」

「…って済んでるしぃ!?」

がびーんと来たガゼル。

一方、真奈は気にした様子も無くミューと戯れていた。

「お前さぁ、自分がなんでこの世界に来たのかとか、興味ねーのか?」

「事故だとおっしゃったじゃないですか?」

「そそ、事故♪んで、その事故で真奈を召喚した人がみんな死んで、見習いのあたしだけが生き残ったから…送還するのも無理なのよねぇ♪」

「無理なのよねぇ♪…って、そんな明るく言う問題か!?」

「仕方ないじゃない!事実なんだもん!」

ガゼルが食い掛かるように言うと、カシスもそれに反発した。

一方、真奈は気にした様子も無くミューと戯れていた。

「って、ちょっとは気にしろよ!!」

人事のように平然としている真奈にガゼルの矛先が向いた。

が、真奈は特に気にした様子も無くキョトンとしている。

「でも、その事故のおかげでガゼルさんたちやミューさんと出会えたんですから。私は結構感謝してますよ?」

「…ビンタの一発や二発覚悟してたけど…まさか感謝されるとは思わなかったわ…」

さすがにカシスも面食らったようだ。

「実はですねぇ、私がここに召喚される直前に、私もどこか別の世界へ行きたいって思ってたんですよ。」

そう言いながら、真奈が少しだけ悲しそうに笑うと、ガゼルは真奈が初めてフラットに来た日の事を思い出した。

暖かい食卓に感動して涙を流した真奈。

それまではミューと同じく孤独だったんだ。

でも…

「お前には両親がいるんじゃねーのか?会いたいとは思わねーのか?」

「…確かに、私には両親がいます。でも、両親には『子ども』がいないんです。」

「あぁ?」

「私は、両親にとって『子ども』ではなくて『器』なんです。須崎家の血を絶やさない為に子どもを産む事だけが私の使命だった。父さんにとって、女の私にはそれだけの価値しかないんですよ。」

「…そんな親…そんな親がいるわけねーだろ!?」

ガゼル達親がいない立場から見れば、どんな親でも親がいるだけで羨ましいのかもしれない。

だからこそ、親と言うものに淡い幻想を抱いてしまうのではないだろうか。

だが、カシスは真奈の気持ちを痛感していた。

カシスの父親も、彼女を『器』としてしか見ていないのだから…。

「……すまねぇ、感情的になっちまったな…」

怯えるミューの姿が目に入って、ガゼルは憑き物が落ちたようにおとなしくなった。

「さて、そろそろ夕飯だ、アジトに帰ろうぜ。」

「そうね、あたしもお腹ぺこぺこ〜〜♪」

ガゼルの後についてニコニコと歩き出すカシス。

「って、まて!なんで付いてくるかなぁ!?」

「んーとね、マナが基本的な召喚術をマスターするまでは一緒にいた方がいいと思うのよ。暴走でもしたら大変でしょ?」

気にしなーい気にしなーい♪と、カシスはいつもの調子でケラケラと笑っていた。

「…一気に二人も食い手が増えた…」

ガクリと肩を落とすガゼルを元気付けるように、カシスがぱんぱんと肩を叩く。

「そのうちいいことがあるって♪」

「お前が言うなよ…」

更に気落ちするガゼルだった。

「あ、お金だったら少しくらいあるわよ?さっき、そこらをうろついてた外道召喚師とか盗賊を適当にあしらって金品強奪してきたから。」

「へぇ、見かけによらずえぐい事やるなぁ。」

ガゼルが心底感心したようにうんうんと頷く。

「…あのね、本気にしないでくれる?とっ捕まえてサイジェントの憲兵に突き出しただけよ。それで金一封貰ったってわけ。」

まぁ、この世界ではこういうお金の稼ぎかたもあると言う事だ。

ただ、外道召喚師(召喚術を悪用する人の事)や盗賊もかなりの戦闘力を持っているため、よっぽど腕に自信がある人でなければ返り討ちにあって命を落としてしまうだろう。

命を懸けるほどの収入があるわけでもないので、普通の人はこういうお仕事はあまりやらないのだ。

「これだけあれば、あたしとミューの一ヶ月分くらいの家賃にはなるでしょ?」

いって、金貨がぎっしり詰まった袋をガゼルに手渡した。

「わぁ、ミューさんの分もですか?」

「うん。だってお友達だもんね♪」

カシスがにこりと微笑むと、真奈も嬉しそうに笑った。

ミューは二人の会話の意味もよく分からずに、笑顔をもらしている。

こうして、チーム【フラット】に新たな居候がやってきたのだった。

だが…ガゼルはカシスに少しだけ疑問を持っていた。

前にも述べたが、盗賊退治の仕事ではこんな大金を稼ぐ事はまずできない。

よほど大きな組織を壊滅させたというのなら話しは別だが…。

だが、それほど大きな組織が壊滅して噂にならないはずがない。

では、この大金はどこからきたのか?

それにカシスにはさっきから言動が不信なところもある。

「……ま、背に腹は返られねーけどな…」

「ん?なんかいった?」

「んにゃ、別に。」

まぁ、あんまり気にしすぎても仕方ない。

悪い奴でもなさそうだし、しばらくは様子を見るか。

自分の中で一応の決着を付けて、ガゼルは家路を急ぐ事にした…。

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